貴方の見ているドメインは
このページについて
「あゝ、高間さんの奥さん。――さうですね」
今泉はかすかに鼻のあたりを不満げにふくらませた。
「はあ、それは――」
「連れっ子をして行ったです。その子供がまたチブスになって、……」
「今晩、寄せてもらつてもえゝですか」
――房一がさういふことを耳にしたのはごく最近である。しかし、いづれにしても房一には直接関係のないことだつた。
「え」
「いや、どうも。恐縮です」
房一はこれまでにも河原町に帰つて一医者としての生涯を始めようと考へないでもなかつたが、老父の道平をはじめ伯父や身内の者すべてがさう希望していると知つたときに、唯々いゝとしてその云ふところにしたがふ気になつた。
こんな風に「円い」――のだらうか。いや、それはどうでもよかつた。盛子はそこに房一を感じていた。それは房一の醜い他の部分を忘れさすに足るものだつた。
房一は大きくうなづいて見せた。もう獲物は大分前からとまつていた。
「おい、お茶を入れてくれ」
「もう一人後から来るかもしれませんが、そしたらよろしく頼んます」