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と訊くと、遊び友達と河へ行つたといふ返事であつた。
「あれから――あんたに鮒をとつて上げようと思つて、今さつきまで淵に附いとつたんだが、たつたこれつぽちきり獲れなくてね。上げるといふほどの物ぢやないけんど――」
「かう云ふと、君は笑ふかもしれんが、自分の親だの子だのいふ者を診るのはじつに困るんだ。なんだかそはそはしてね」
「大石練吉です」
今それを思ひ浮べたとき、房一はふいに一種の怒気を感じた。それは疾やましさのないはげしい敵意、何かしらぐつと相手を地面まで押しつぶしてしまひたいほどの、腹の底からこみ上げて来る得体のしれない力だつた。
男は眼を閉ぢたまゝだつた。
日々は平凡に単調に過ぎて行つた。
「何者かつて云ふが、そもそもこゝで半鐘をたたいたから集つて来たんだぜ」
「何しに来た?」
男は眼を閉ぢた。何も答へなかつた。
「さういふあんたはどなたで?」
「よく来て下さいましたな。何しろ不便なところですから、途中が大変だつたでせう」
かうして、房一の帰郷開業はその生涯を劃する大きな変化でもあつたが、同時にあの古風な河原町の人達にとつても眼を瞠みはるやうな事件であつた。房一はめつたにない成功者として目された。地方の新聞には彼の苦学力行を賞讃する大きな記事が出た。